まどろみ3秒前

「翠さんは、俺のこと知ろうとしないの?」


2つの靴の音がする。すっかり辺りは暗かった。唯一明るく光っていた、通りすがりの自動販売機を見つめる。

東花にも気を付けろと注意されたというのもあるし、単純にも確かに朝くんのことを知りたいのはある。

何も私は知らないから。聞かなかったから。知る、なんてどうでもいいと思ってたから。


「まあどうでもよかったんだけど。…やっぱり知りたいって、思えてきた気がする」

「…ふうん、そう」


正直に言ったが、彼は少し寂しそうだった。素っ気ない返事をするだけで、それ以上を彼は何も言わなかった。


「でも、別に知らなくていい。私は、何も知らなくていいから。私の中で朝くんは、ずっと意味不明で変な人だから」

「…へんな、ひと?」


彼のポカンとした顔を見て、「今更?」と笑ってしまった。まさか、自覚なかったのか。


「変な敬語使ってくるわ学校不法侵入するわ私と死ぬことが夢やら100点とれやら…、その、私のこと好きとかも、意味わかんないし」

「…」

「あ、いや別にバカにしてるわけじゃなくて…ごめん、ほんとごめんなさい…」


ペコペコ許してもらえるよう頭を下げていると、彼は私を見てふふ、と優しく笑っていた。
< 180 / 407 >

この作品をシェア

pagetop