まどろみ3秒前
「翠さんは、俺のこと知ろうとしないの?」
2つの靴の音がする。すっかり辺りは暗かった。唯一明るく光っていた、通りすがりの自動販売機を見つめる。
東花にも気を付けろと注意されたというのもあるし、単純にも確かに朝くんのことを知りたいのはある。
何も私は知らないから。聞かなかったから。知る、なんてどうでもいいと思ってたから。
「まあどうでもよかったんだけど。…やっぱり知りたいって、思えてきた気がする」
「…ふうん、そう」
正直に言ったが、彼は少し寂しそうだった。素っ気ない返事をするだけで、それ以上を彼は何も言わなかった。
「でも、別に知らなくていい。私は、何も知らなくていいから。私の中で朝くんは、ずっと意味不明で変な人だから」
「…へんな、ひと?」
彼のポカンとした顔を見て、「今更?」と笑ってしまった。まさか、自覚なかったのか。
「変な敬語使ってくるわ学校不法侵入するわ私と死ぬことが夢やら100点とれやら…、その、私のこと好きとかも、意味わかんないし」
「…」
「あ、いや別にバカにしてるわけじゃなくて…ごめん、ほんとごめんなさい…」
ペコペコ許してもらえるよう頭を下げていると、彼は私を見てふふ、と優しく笑っていた。