まどろみ3秒前

「深夜の2時半」


彼は、落ち着いた口調で言った。


「…深夜…?」

「気絶してから、数時間しか経ってない」


数時間。希望でも絶望でもない、何かの光のようなものが私の心に溢れだした。

その時、鼻の奥がツンとして痛くなった。気付いたら、私は泣いていた。


「起きれたの…?ほん、と…?寝坊せず…?」


涙が溢れてきたので起き上がろうとしたが、思うように体が動かない。


「ほんと。嘘じゃない。なに寝坊って」


私は、声がする方にやっとのこと首を向けた。大きく目を開けて、その顔を捉えた。

すぐ隣には、横になった顔があった。私を止めてきた、あの彼がいたのだ。

綺麗な顔が近くにあり、彼の透き通った茶色い目と目が合った。

声が近かったのもそのせいだったらしい。一緒に、寝てたってこと…?


「やっとこっち、向いてくれた」


彼は、嬉しそうに優しく笑った。


「ねぇ、翠さんなんで泣いてんの」

「…なんで、泣いてんでしょね私…」


声を押し殺しながら、私は人前で久しぶりに涙を流して泣いた。我慢してきたものが溢れでてくるような感覚だった。

彼は、私のことを知らない。だから、存分に泣いてやろう。もう、それでいいや…
< 26 / 384 >

この作品をシェア

pagetop