愛なき女の生涯
序章
 令和5年、12月28日。
(大した額でもない預金を引き出すのに、こんなに面倒くさくてお金までかかるものなの…?)
 市街地を自転車で駆けずり回ったあと、市役所で原戸籍の請求待ちをしている天久マイアは、くたびれ果てていた。
 死亡した父・學の預金を引き出すには、遺言状、連続して繋がっている原戸籍、父が死亡したことを記載された住民票、親子関係を証明できるものなど、想定以上に色々と必要と言われていた。
 おまけに、遠方の姉・ジュビエまでもが、マイアに市役所でいくつかの書類を貰ってきてくれという。
 しかし、ジュビエはマイアに親を押し付けたお詫びとして、相続放棄してくれる手前、文句も言いにくい。
「38番のお客様、お待たせしました」
 マイアが番号札を見ると、38と書かれてあるので、立ち上がり窓口へ向かう。
「お時間がかかって申し訳ありません。枚数が多かったので…」
 職員に見せられた原戸籍とやらは、確かにかなりの枚数に渡っていた。
「全部で8600円になります」
「えっ!?」
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