愛なき女の生涯
ハナの結婚と離婚
 長澤ハナは、大正4年の3月20日、北陸某所の閉鎖的な農村で生まれ育った。
 実家は、農村では数少ない万屋(※現代のコンビニのような何でも屋)である。
 ハナが19になった頃、井川義範という男との縁談が決まった。ハナは義範のことを全く知らなかったが、当事は恋愛結婚などするような時代でもなく、年頃になれば嫁にいくのが当然の世の中だった為、これといって何も思うこともない。
「義範さんは、上原謙に似たいい男だってよ」
 村人から、そんな噂を耳にしたものの、実際に対面したところ、義範はかなり小柄で、ハナは、ちっとも似ていないと内心思った。
 ハナは、物事を深く考えるような、知性や人間的な深みのある女ではなかった。
 しかしそれは、ハナが極端に頭が悪いというよりは、閉鎖的な農村で生まれ育ったという理由も大きい。世の中に逆らうことなく、ただ流されて生きることが、ごく当たり前とも言えた。
 ゆえに、ハナは何とも思わない相手である義範と、何も考えず結婚し、翌年、翌々年には長男の學と、次男の學人が誕生。
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