愛なき女の生涯
 ある日、畑に見たことのないものが落ちていた。
「爆弾だ!爆弾だ!」
 息子たちは大はしゃぎだったが、幸いそれは不発弾だからよかったものの、もしそうでなければ、粗末な井川家など吹っ飛んで、一家全員死亡するところだった。
 夫の義範には、何故か召集令状が届かなかったが、今でいうところの空気の読めないハナも、流石にその理由は怖くて尋ねることが出来やしない。
 本来ならば地獄のような6年は、思いの外、あっという間に過ぎ去り、日本はまさかの敗戦国となった。
(まぁ、これからは平和な日々が戻るからいいわ)
 ハナは呑気にそう思っていたが、彼女にとって悲惨な日々は、ここがスタート地点に過ぎなかった。
 義範の父・金次郎は、宮大工ということもあり、村では尊敬されていたが、義範は商人の道を選んだ。
 仕事の関係で、義範はしばしば遠方に出向き、家を留守にすることも多かったが、ハナは特にそのことで何かを疑うこともなかった。
 次男である學人の誕生から歳月が流れ、ハナは3人目を身籠ったが、その頃はもう、義範は殆ど家に戻らない状態だ。
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