初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
 気まずい空気のまま帰った翌日。
 初美は気まずい気持ちのまま蓬星の隣で仕事をしていた。
 彼は今日も疲れをにじませながら、冷静に仕事をしている。
 初美は憂鬱な気持ちでパソコンを操作する。

 朝礼後、蓬星は瑚桃を会議室に呼び出した。
 しばらくして、瑚桃はふてくされた様子で、蓬星はどっと疲れた様子で出てきた。お説教はまったく効果がなかったのだろうことが想像できた。データの削除を咎められ、瑚桃はなんと反論したのだろう。

 フロアの電話が鳴り、川越がとった。しばらくして、川越は蓬星に声をかける。
「石室さん、客先が送られたデータのことで話があるって言ってます」
「わかった。まわして」
 蓬星が電話をとる。
 初美は緊張した。クレームだろうか。慌てて打ち直したから、ミスがあったのだろうか。

 はい、はい、と返事をする蓬星を見ると、彼と目があった。彼は微笑した。
 電話を切った蓬星は、初美に向き直る。
「わかりやすい資料だったって、お客さんがわざわざお礼の電話をくれたよ」
 初美はほっとして胸に手を当てた。

「協力してくれてありがとう」
「いえ……」
 役に立てた。それがうれしくて、初美は目を細めて彼を見た。
 瑚桃はその二人を、面白くなさそうに見ていた。



「データを消しましたけどぉ。なんともなさそうでしたよぉ」
 物陰に隠れて、瑚桃は電話をしていた。
「え? 企画会議でなにかなかったか? えっとぉ……」
 思い出しながら、瑚桃は言う。
 相手の返す言葉に、瑚桃はにやりと笑った。



 初美は久しぶりに順花と食堂へ行った。
「交際は順調?」
「順調といえば順調だけど、仕事が忙しくなって、なかなか二人で会えなくて」
「やっぱりさみしいものなの?」
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