初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
 
 会議室を出ると、誰かに何か言われるのでは、とどきどきした。
 付き合ってる二人が会議室で二人きりなんて、意味深く思われたらどうしよう。
 だが、ほんの五分ほどだったせいもあり、誰も何も言わなかった。
 そもそも、大人ならいちいち言わないものだ。内心でどう思っていようとも。
 そう思って瑚桃を見る。
 バチッと目があった。
 が、瑚桃はすっと目をそらした。
 あの子が黙ってるなんて、なんか、かえって不気味。
 初美は不吉なものを感じながら席に戻った。

 貴斗はビルの屋上で電話をかけた。
 青空が広がっている。
「俺だけど。……ちげーよ。そうじゃなくて。お前、真面目なイケメンと結婚したいって言ってたろ。いいやついるぜ」
 意地悪く、貴斗は笑う。
「マジだって。ちょっと彼女いるけど、お前なら楽勝だろ」
 女の返答に、貴斗は笑った。
「その女狙いなわけねーじゃん。まあ、上達してるんならヤッてやってもいいけどな」
 貴斗は、くくっと笑った。
「また今度打ち合わせな」
 そう言って電話を切った。
「見てろよ、蓬星」
 蓬星はいつも、自分の攻撃から逃げていた。就職するときにあいつが現場を選んだと知ってスカッとした。あいつにふさわしい。塵にまみれて汚れて生きて行けばいいと思った。
 所詮、あいつは敗者だ。それがあいつにふさわしいはずだった。
 なのに、あいつはこの会社に現れた。
 笑ってやろうとしたら、あいつは反抗した。
あいつが逆らうなど、許しておけるはずがない。
 二度と反抗できないように、思い知らせてやる。
 貴斗は目をギラつかせ、白い雲を睨みにらみつけた。
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