魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない
魔王が鍋に近づきそうになって、イーダは慌てて止めた。
「待ってください。強烈ににおうかもしれません!」
「まだ大丈夫だと思います。まだ中盤というとこりですから。これが完成間際になると悪臭になりますが」
ソフィーの説明を聞いた魔王は、鍋の前まで進み、手で湯気をあおいだ。
「なるほどね。胃腸を整える薬草に、発汗作用のある薬草、それと免疫力を高める……木の子?」
ぶつぶつ独りごちながら、鍋から木べらをすくい上げた。
「効果を高めるために、魔法をかけながら煮詰めてるのか……」
魔王は振り返って苦笑いした。
「これ、万能薬みたいなものだよね。しかも作るのが大変じゃない?」
イーダは口を尖らせた。
「そうなんですけど、斑紋死病を退治する薬を作ろうとすると、内臓器官までズタズタに破壊してしまうから……」
「そっちの薬の材料は?」
「大きな声では言えないんですけど、毒性のある蜘蛛と蟻と、あとは痛みで苦しまないように昏睡させる草花も少々……」