魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない
子息は街を歩き慣れていない様子だった。
いかにも金持ちのお上りさん風だ。
ソフィーの目には心許なく映った。
(やっぱり!)
屋台で吹っかけられているところまでは笑って見ていられた。
けれど財布をすられるのは見過ごせなかった。
すられた財布は、まんまと魔法ですり返してやった。
(危なっかしすぎて、もう黙ってられない!)
ソフィーは財布を顔の高さまで掲げて、子息の前に出た。
「あっ、あれ?」
子息は財布が入っているはずのポケットに手を入れた。
「えっ、ない!」
「すられたのよ」
子息の手に財布を戻した。
「街が物珍しいんだろうけど、いろんなものに気を取られすぎ。もっと気を引き締めてね」
眉目秀麗な顔立ちが台無しになってしまうくらいキョトンとしているのが可笑しかった。クスクス笑いながら、『じゃあ』と立ち去ろうとした。