魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない

 王宮の部屋で軟禁されかけたとき、『魔王様』とひと言だけつぶやいたら謁見の間に転移させてくれたことを思い出した。

「魔王様って、私が『魔王様』って呼べば聞こえるんですか?」

 だとしたら、今後は『魔王』という言葉を発することがないように気をつけなければならない。

「近くにいれば別だけど、それだけだといくら僕だって聞こえないよー」

 魔王といえど、何でもできるわけではないらしい。

「あれ? じゃあ、さっき王宮で私を転移させてくれたのは、私の声が聞こえたからじゃないんですか?」

「さっき? さっきは君と帰ろうと思って転移させただけだよ。えっ、僕のこと呼んでくれてたの?」

 魔王が破顔した。

「呼んだっていっても、あのときは胸騒ぎがしたからで!」

 魔王は、イーダの言い訳を『うん、うん』とにこにこ顔だ。

(私が魔王様のことを必要としたと思って喜んでくれるなんて……)

 そのことを堪らなくうれしく感じてしまう。
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