魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない
イーダに限っては、さらに使い魔と契約することも楽しみにしていた。
その日も、名前の候補を考えながら鍋をかき混ぜていた。
(あの子、全身真っ黒だった。毛も、瞳も……『くろまめ』っていうのはどうかな?)
……ガチャンガチャンガチャン……
不意に聞こえてきた無数の金属音によって、名前の考案は中断させられた。
その音はあっという間に、小さな集落を取り囲んだ。
「何の音かしらね……きゃっ! 何あれ!? みんなもこっち来て!」
窓の外を覗いた魔女は取り乱して言った。
イーダは鍋の前から離れられなかったが、上体を反らして窓を見た。
イーダは息を飲んだ。
たくさんの兵士がいたのだ。金属音は兵士の着ている鎧が発していた。
でも、どうも領軍とは違うようだ。
掲げている旗は見慣れないものだったが、それでも王家の紋章だということくらいは認識できた。