魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない

1.6

 乱暴に引っ張られ、イーダは地面に膝をついた。

 それども、男は力を緩めようとせず、イーダはなおも引っ張られ続けた。

「痛ったあ!」

 イーダは顔をしかめた。

 両膝からは血がにじみ出ていた。

「身代わりが怪我をしているのはマズいか……おい、魔女なら魔法で治癒しておけ。ああ……」

 男は鼻で笑って、侮蔑の視線をイーダに投げつけた。

「そんな芸当は無理だったか。斑紋死病もろくに治癒できないんだからな」

 斑紋死病を退治するのとは違って、怪我を治すのは簡単なことだ。それも皮膚表面だけでいいのなら、手をかざして呪文を唱えれば一瞬だ。

(見せつけるために今男の目の前で治したほうがいい? それとも、怪我をしたままにしておいて困らせたほうがいい……?)
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