魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない
2. 対価

2.1

 日の光が差し込むことのない魔王城の大広間──

 明かりが灯っているはずなのに、どこか仄暗く感じられる。

 その部屋で、魔王は玉座に座り、侍従長と話をしていた。

 しかし、その最中だというのに、侍従長が『おや?』と何かに気を取られた。

 この初老の侍従長は、魔王の父親でもある先王の時代から仕えていることもあり、魔王に対してどうも敬意が足らない。

 魔王は常日頃からそう感じている。

 それでも魔王が侍従長の態度を咎めることができないのは、侍従長の人柄ゆえのことだ。魔族らしからぬ情を持っている。それと親しみやすい笑顔も。

「人間界から呼び出しがかかっておりまして、退席してもよろしいですか?」

 侍従長は笑顔で魔王に伺いを立てながら、ソワソワし始めた。

「魔王である僕より人間を優先するんだな」

 咎めはしなかったが、小言は溢れた。

 深淵のような漆黒の瞳で、気もそぞろな侍従長を見つめ、魔王はもったいぶるように長い足を組み替えた。

 瞳だけでなく髪まで闇のように黒い魔王の、そのダークな印象はますます濃厚になった。
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