エンドレス・ラプソディ
「──ひっ!?」

 振り返ると、見下ろしていた大きな影に驚いて、俺は腰を抜かした。

 あのとき俺は、小さかったから大きいと思っていたけれど、実際はそうでもなくて、普通の大人の男の人がそこにいた。

「坊主、どうした?」

 膝を折り、目線を下げて訊いてきた。その表情は柔らかで、俺は安心して泣きじゃくってしまった。

 男の人はびっくりして困った顔をしながらも、縁側に座るように促して、そこから(せき)を切ったように、俺は嗚咽(おえつ)混じりにこれまでのことを話しまくった。

 相手が赤の他人だから、というのもあったのだろう。知らない人なら、干渉してくることもないだろうと、幼いながらも打算的な意識があった。

 話していたら、いつの間にかおじいさんも横にいて、落ち着いた頃にお茶菓子を出してくれた。

 緑茶と大福だったけど、それが心に()みるほど美味しかった。その味は今でも覚えている。

 ただじっと耳を傾けてくれた二人に俺は思慕の念を抱き、学校が終わったあと足繁く通うようになった。

 気がつけば、母さんの恋人は家からいなくなっていて、中学生になるとクラブ活動が忙しくなり、あの家に足を運ぶことは減り高校に入る頃には、すっかり忘れ去っていた。
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