さまよう綸

最終話

 彼は約束した…這ってでも私のところに戻ると。

「綸さん、若の命に別状はありません。落ち着いて広間で一緒に話を聞いてから病院に行きましょう」

 言われるままに広間に行くと、この時間屋敷にいた全員が揃っているようだった。前にいるお父さんに

「綸」

 と呼ばれ隣の座布団を指される。ストンと座ると

「失礼します」

 聞いたことのない硬い声の潤が一人で一歩広間へ入ると、その場で額を畳に擦り付けるような土下座をした。

「親父、申し訳ございません」
「潤、ここまで来て説明」

 潤の話では繁華街の店への訪問が終わって外へ出た時、一発の銃撃で正宗の大腿部に命中。取り押さえた相手は宮本組の残党。正宗への銃弾は大腿部を貫通しており筋肉量の多い場所のため出血量が多かったが命に別状はなし。骨に亀裂骨折あり。今は眠っていて駿がついているというものだった。その後、高須としての対応を話しているようだったが私は席を立った。

「綸、病院へ行くか?明日…もう今日だが朝に行くか?」

 話を中断してお父さんが私に聞いてくる。伊東さん小笹さんも私の隣に立ってすぐ動くつもりのようだ。

「今も朝も行きません」

 広間がざわめいた後、皆の視線が私に突き刺さる。

「綸に殺される以外は…誰に後ろ指差されようが、どんなにバカにされようが這ってでもお前のところに戻る、必ず。彼は私にそう言いました。私も…何かあっても血塗れでも正宗のところに戻って最後は彼の腕の中で逝くと約束しているんです。だから…ここで彼を待ちます」

 私が皆へ頭を下げて広間を出ようとすると

「綸、朝の味噌汁は綸が作ってくれ。おやすみ」

 お父さんが言ってくれるので堪えているものが溢れそうになり、前を向いたまま大きく頷くだけで広間を後にする。正宗の部屋で彼の匂いのするベッドに入ると涙が止まらなくなった…ダメだ、ここは。タオルケットだけ持つとカーペットの上に丸まって1時間ほどうとうとしたようだが、まだ3時だ。意味もなくスマホを手にするとリッキーと一美さんからいくつか着信とメッセージが入っていた。この銃撃でお祝い事である誕生日パーティーは中止だとも書いてある。リッキーは何時でもいいから電話してともメッセージをくれている。3コールで出なければ切ると決めかけてみると1コールしないうちに

‘綸ちゃん?’
「うん」
‘少し眠れそう?眠っておかないと正宗すぐ帰ってくるぞ’
「ふふっ…そうだね。パーティー…準備してたのに申し訳ないことになったね」
‘親の組の一大事にパーティーしてられない’
「正宗が帰って来たら…」
‘うん?帰ってくるよ、すぐ’
「帰って来たらマンションに来て。パーティーしようね…ってやった事ないけど」
‘ははっ、楽しみにしてる。綸ちゃん今横になってる?’
「座ってるよ」
‘横になって、眠れなくても体を休めて
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