さまよう綸
 そうは言われても正宗が来るまで、お父さんと私が一緒に動くということは必然的に畠山さんともう一人がお父さんに、伊東さんと小笹さんが私についておりプラス百貨店の方が数名…そんなに視線があってあれこれ選べるの?

「お父さん…お父さんの買い物に先に付き合うよ。この雰囲気に慣れないから」
「そうしよう、綸に選んでもらおうか」

 お父さんがご機嫌で‘畠山’と言うと畠山さんは百貨店の方にふたつほどブランド名を告げる。ひとつの店に入ると畠山さんが店内を一周見渡し、スーツ、シャツを数点並べる。ここのブランドとお父さんの好みの物を把握して並べているようだ。

 私が店内を一周歩いてからお父さんのところに行くと

「綸、これどうだ?」

 とお父さんがスーツの上を羽織っている。畠山さんが

「サイズは後でフルオーダーですので顔映り等で選んであげて下さい」

 と恐ろしい補足をしてくれる。ここのスーツいくらするのよ…それをフルオーダー?道理でお父さんも正宗もスーツ姿が素敵なはずだわ。無駄がひとつもなく格好いいもの。お父さんに‘いくら’なんて関係ないんだな。よし、高須の娘らしく振る舞ってみようじゃない。

「いいと思うよ。後ろ見せて…これサイドベンツにした方が素敵だと思う」
「そうオーダーしよう」
「これは…お父さんじゃなく畠山さんに似合うね。お父さんはこっちだよ。スリーピースも似合う」
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