さまよう綸

side Masamune

 俺は今日、自分と同じピンと一本張りつめた、細く美しい糸を見つけた。
 
 その何も映さない瞳の色が俺の燻るものに火をつけるのは簡単だった。

 イヤホンをつけるとほんの僅かにその色が変わり大きな猫目の目尻がふっと緩む。俺にその瞳を向けて欲しい。

 彼女の職場を調べ迎えに行くが、彼女…綸は車から飛び降りるという予想外の事をやってみせる。すぐに見失い、チッ…絶対にケガしただろ…

「潤、ここから綸の最寄り駅向こう2駅」

 潤に伝え俺は電話を一本入れる。

「泉先生を乗せて○○駅方面で待機してくれ。先生にこの電話すぐ繋げるか?」

 本家の人間に電話し医者の今泉先生に出てもらうよう頼む。彼は高須組本家の一室に住み平日午前は病院勤務し午後からは本家にいる。俺たちは泉先生と呼んでいる、本物の極道より厳つい顔の医者だ。

‘もしもし、わしが出るんか?怪我人か?’
「ああ、女が車から飛び降りた」
‘がははっ、正宗の女か?’
「いや、そうなる女だ」
‘そうかそうか、ほな急ぐわ。症状は?’
「わからない…逃げてる」
‘ぶわっはっ…わしその子、見てもないのに気に入った。はよ見つけて連絡くれ。わしは近くで待機やな’

 探し始めて1時間半、ようやく最寄り駅のひとつ向こう駅前のファーストフード店にいると連絡がありすぐに向かう。俺たちが到着した時、綸は店を出て男に腰を抱かれていた。車を飛び出すと駿が低く

「正宗!お前は綸ちゃん、俺が男」

 プライベートモードで俺を呼び、やり過ぎないよう男には触るなと言う。俺と同い年の潤と駿は4歳の頃から親父の側近、畠山さんに連れられ本家に来るようになり、共に学び訓練し遊んだ仲で30歳の今までずっと変わらず側にいる。時に側近、時には秘書そして時には親友となる双子だ。

 その良く似た双子を瞬時に見分けた綸に感心しながら、車へ彼女を乗せ泉先生に診察を任せる。頭は打っておらず足首の捻挫が一番酷そうだ。不自由な足でも家に帰り寝て治すと言う彼女は、人に頼るという事を知らないのだろう。

 俺だけを頼り俺だけに甘えて欲しい。どろどろに溶かしてやりたい。そう思っていた俺が甘いと知るのはすぐの事だった。彼女の部屋を見た俺と潤は思わず‘はっ?’と声を上げた。物が少ないというよりは何もない、毎日人が生活しているとは到底思う事のできない死に支度の整ったような異様さに、彼女の瞳の色の奥深さを感じ部屋を後にした。

「えっ、もう正宗も帰るの?」

 車で待っていた駿が慌てて聞く。

「ああ、帰って綸のこと調べる。今のままじゃ綸を理解してやれない」

 そう言い目を瞑ると彼女の顔を思い浮かべた。待ってろよ、絶対に俺が甘く溶かしてやる。
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