さまよう綸

第6話

 マサムネの歌に合わせて潤と駿が歌い出す度コツンと前の座席を蹴っていた正宗が大人しくなり、隣を見ると彼は目を閉じて眠っているようだった。

「あれ?珍しいね、正宗が人前で寝るなんて」
「ずっと最低限しか寝てなかったんだろ」

 潤たちの会話とマサムネの歌声を聞きながら私もいつの間にか眠っていたようだ。気がついた時には正宗の腕が私の腰に回り頭を彼の肩に預けていた。

「…ごめん、寝ていたの邪魔したかも」
「構わない。もうすぐ着く」
「どこに着くの?…私…アパートと仕事ある?」

 彼らは派遣会社にもアパートにも私が失踪したとならないように連絡してくれたらしい。

「だが、もうあのアパートには帰さない。勝手に物を処分しないように置いているだけだ」
「なんで?…どこに住むの?」
「あのアパートはセキュリティが心配だ。俺のマンションに綸の部屋を作った。もう離すつもりはないからな」
「…」

 マンション?私の部屋?疑問はあるが昨夜の正宗の話を聞いて一晩中考えたんだ。なぜ私をここまでして探したのか、彼の気持ちは聞けたと思う。もう忘れてしまったような無数の諦めたものを私は取り戻しても良いのだろうか?取り戻すことは出来るのだろうか?

 マンションといっても私が知っている物とは全く違い戸惑う。高須不動産、つまり正宗のマンションらしく、暗証番号で動く上層階専用のエレベーターがあり、それに乗るだけで私のアパートのセキュリティが心配という訳がわかる。最上階に着くと暗証番号と虹彩認証でロック解除となった。

「…」

 私が動かないでいると

「綸?どうした?」
「…私ここへ入ったら出られない…それか閉め出し?」

 正宗は私の腰に腕を回し部屋へ促す。

「大丈夫だ。すぐに綸のも登録する」

 部屋へ一歩入るとまずは広いエントランスのような空間が見え階段がある。その奥にリビングらしい空間といくつかの扉が見えた。正宗の部屋と聞いたのにアパート一棟入ってしまいそうじゃない…ってか

「靴履いてるんだけど…」
「ああ、構わない。綸のルームシューズも用意したぞ」

 目元を緩めて甘く微笑えまれても…どうしよう…今までにない状況に心の持ちようがわからない。

「ん?綸?」

 知らず知らず正宗のシャツの裾を握っていたことに、その手を取られ気づき慌てて放した。

「あっ、ごめん」
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