さまよう綸
「放すなよ。綸が俺を頼ってくれるようで嬉しいんだけど」

 その声で甘く囁きながら首を傾けないで欲しい。それに正宗はもっと単語だけで話していたはずなのに昨日から言葉数が多くない?

 しかもセットのされていないミディアムの無造作な髪を片方耳にかけセクシーさが数割増しなのには、性別年齢国籍関係なく誰しもときめくのではないか…反則だ。

「ん?歩けないのか?」

 子どもにするように抱っこしようとする正宗に慌てて言う。

「そんなわけないでしょ、歩けるわよ」
「なら…何考えてた?」
「私…ここには住めそうにない、申し訳ないけど」

 私の無礼な物言いにも彼は気を悪くする様子ひとつ見せず

「綸、全部見てくれ。案内する」

 私の手を取り指を絡ませ前を歩き階段を上り始める。

「上がプライベートな部屋。下は潤たちと仕事したり飯食うこともある。もちろん綸は上も下も自由に使っていいぞ」

 階段を上がると、まず広々としたリビングがありその奥右手にキッチン、中央と左に二部屋あった。キッチンと部屋の間には大きなバスルームもあり、そのどこもがモノトーンで統一されている。モノトーンと言っても、黒、白、グレーを上手く使い暗くならないセンスの良さを感じる空間だ。

「さあ綸、綸の部屋を見て」

 階段を上がって一番左側のドアを開けた彼は、自分は立ち止まり私を部屋へと進ませた。

「…まさ…むね?これ?」
「ああ、綸の部屋だ。ゆっくり奥まで全部見てくれ」

 この部屋もモノトーンだがリビングより白の割合が多く柔らかい印象だ。ローベッドが広い部屋を更に広く見せている。小さなソファーもロータイプの物でその前にソファーに合わせた様なテーブルがある。ドレッサー以外全てロータイプの家具なのは私のアパートを見て床に近い方が落ち着くと思ったのだろうか。そしてテーブルの上には丸いスマートスピーカーが置かれていた。私の視線に気づいたのか正宗が

「もう使えるぞ。でもその前に奥の扉を開けて」

 広い部屋の中央にいた私を扉の前に連れて行き嬉しそうに言うのでそっと開けてみる。

「…私、十分ここに住める…」
「全部好きに使ってくれ」

 扉を開けるとアパートの部屋ほどのウォークインクローゼットになっており、大きな姿見の両脇にはショップのようにずらりと洋服が掛かっている。その上にはバッグが並び、下には靴が並ぶ。

「…一生分みたいな量ね…」

 洋服をそっと見ながら進むと白いチェストがあった。

「それも全て綸のものだ。気に入ってくれるといいが」
「正宗が揃えてくれたの?」
「ああ…綸の居場所がわかってからこの部屋の物は俺が全て選んだ。開けていいぞ」

 その声にそっと引き出しを引くと、美しい色とりどりのランジェリーが並んでいる。下の段にはソックスやストッキング類など本当に全てが揃っている。気になって一番上にあったブラを手に取りサイズを見るとE65…

「ねぇ…ブラのサイズまでどうやったらわかるの?」
「ホテルで見た」

 アツシの時か…結局ブラを取り払ってたっけ…そう思い起こすとグッと腕を引き抱きしめられた。
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