さまよう綸
 それから泣き続けた私はそのまま疲れて眠ってしまったようだ。気がついた時に自分がどこにいるのかわからず、目だけをキョロキョロさせ確認していると

「おはよ、悪いなベッドじゃなくて」

 正宗が私を覗き込んだ。上のリビングで彼は仕事中で、その彼の膝枕でタオルケットに包まれた私が寝ていたようだ。

「一人で目覚めないようにしてくれたんだね、ありがとう」

 仰向けのまま手を伸ばし彼の頬に添えると

「正宗が…正宗のことが好き」

 もう涙はたくさん流したから笑顔で伝えられたと思う。彼は顔をくしゃっと崩しタオルケットごと私を膝に横抱きにすると、何も言わず涙のあとに張りついた髪を退けながら何か考えているようだった。

 優しい静寂に身を任せ彼を見つめていると

「綸」

 彼はこれまで以上に優しく艶やかにたったの二文字を音にした。

 捨て置かれた自分の名前をこれほど心地よく耳にする日がくるとは思ってもみなかった。

「もう一度…呼んで」
「綸」
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