さまよう綸

第11話

 本家に行った後すぐにアパートを解約すると決めた。私なりに正宗と高須に向き合う意思表示だ。

 必要な物を確認するように言われ約4ヶ月ぶりに訪れた部屋で…思わず涙が溢れた。10年近くもこんなに何も無い部屋でどうやって生きてきたのかと…自分一人の気持ちがどんなに張りつめていたのかと…ここで過ごした時間を思い出し蒸し暑い部屋の真ん中で涙が流れる。

 一緒に部屋まで来てくれた伊東さん小笹さんが途方にくれ、正宗に連絡したようで…私が暑さでぼーっとし始めた頃

「綸、悪い…一緒に来るべきだったな」
「…正宗」
「ん、持ち帰る物はあるか?」 
「…ない…ここは空っぽだった…」

 彼に抱きしめられ再び涙を流しながら意識を手放した。

「若、お忙しいところ申し訳ござません」

 伊東さん小笹さんが正宗に頭を下げていたことはもちろん知らない。

「いや、俺が一緒に来るべきだった」
「綸さんに関する報告は全て読ませて頂きましたが…ここまで徹底した部屋は想像出来ていませんでした」
「俺も伊東さんと同じっす。今日ここを見て良かったっす…これで綸さんのことを正しく理解できた気がします」
「借金の取り立てに行ってももっと物はあるよな。しかも18の女が10年近くだ…信じられないがそれが綸だ。わがまま言わせたくなる気持ちがわかるだろ?まだ何も言ってくれないがな…」

 
 目が覚めた時に全く知らない部屋にいた私が慌てて起き上がろうとすると

「あかんあかん、綸ちゃん」
 
 今泉先生の声でとりあえずホッとする。

「先生…ここどこですか?」
「本家の正宗の部屋や。もうすぐ仕事も終わるやろ。綸ちゃんはちょっと脱水って感じやったけど、寝てたし飲ませられへんから点滴してんねん」

 言われて見れば左手に点滴が落ちている。

「気分悪いとか頭痛いとかあらへんか?」
「…大丈夫です、先生いつもありがとう」
「いやいや、熱中症やらなる前で良かったわ。もう点滴外すわな」

 先生が処置をして下さる間に…グゥーと私のお腹が大きくなった。

「がはっ…ちょっと待って…はいOK、食堂行こか?何かあるやろ。ゆっくり起き上がって、ゆっくりな」

 この部屋の前には伊東さんが待っていて下さり思わず聞いた。

「伊東さん、お昼食べられましたか?」

 彼は少し驚いた顔をしてからにっこりと答えてくれた。

「はい、小笹と交代で頂きました。今小笹が食堂にいるはずです」
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