さまよう綸
 3人で食堂に行くと小笹さんがちょうど京太さん親子と食べ終わったところのようだった。

「こんにちは」
「おう、綸ちゃん具合悪くないか?」

 京太さんのお父さんが聞いてくれる。

「大丈夫です」
「大丈夫やで、大きい腹の虫鳴かせてたわ」

 先生の言葉に京太さんは笑いながら自分のトレイを下げる。

「牛丼かそうめん、どっちがいい?」
「そうめん…あっ自分でやります」
「もう湯はあるからすぐ出すよ、座ってて」
「すみません、ありがとうございます」

 お言葉に甘え座って待つことにし、伊東さん小笹さんに声を掛けた。

「アパートで…ご迷惑おかけしました。すみません」
「いえ、とんでもない」
「俺たちの方こそ、暑さを考慮しないといけなかったっす」

 3人ですみませんと頭を下げあっていると、京太さんがトレイにそうめんを乗せて来てくれた。

「はい、お待たせ」
「ありがとうございます。ミョウガ好きです。いただき…」
「何が好きって?綸」

 背中にぐっと重みを感じ、頭に顎が乗ったのがわかる。

「…ミョウガ」
「俺も食う」
「食べてないの?…もしかして…アパートに来てくれたから時間なかった?」
「いや、大丈夫か?」
「うん、ありがとう。これどうぞ」

 トレイを横にずらして置くと

「正宗、牛丼食う?綸ちゃん、それ食べなよ」
「京太さん、俺、牛丼。綸、食え」
「ありがとう。いただきます」

 食事を始めるけど、また気になって聞く。

「潤と駿は?」
「残ってる仕事をしている」
「アパート一緒に来たんだよね…お昼食べてない?」
「いいだろ」
「京太さん、ご飯ありますか?」

 キッチン内で洗い物をしている様子の京太さんに聞くと、あるという。

「おにぎり作ってもいいですか?」

 ごちそうさま、と手を合わせトレイを運びながら聞き、何でも使っていいと言うので梅干しと昆布を冷蔵庫から出しておにぎりを作る。そして

「お仕事の邪魔にならないなら持って行くけど…どうかな?」
「畠山さんと仕事しているから持って行っても大丈夫だ。行くか?」

 長い廊下を迷子にならないよう部屋数を数えながら正宗の後ろを歩き

「あの黒い扉だ」

 和室が続いた先に黒いドアが見えそこにいるらしい。と…後ろからパタパタと足音がし、私たちの周りが甘ったるい声と匂いに包まれた。

「いた~正宗~」
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