さまよう綸

第3話

 髪を洗い、汗を流すだけの短いシャワーを済ませ、全身を確認する…うん、寝て治すしかないな。

 そこでインターホンが鳴った。ここを訪れる人なんていない…彼ら?寝て気づかないことにしておこう…綸ちゃん、わし今泉や…ドアの向こうから抑えた声で先生が言う。

「わしだけ入れてくれへんか?その捻挫、そのまま放っておくのはアカン。可愛らしい靴履けへんようになるで」

 そっと薄いドアを開けると先生が厳つい顔の眉を下げて

「開けてくれて良かったわ…風呂入ったんか?」

 部屋に入りながら私の濡れた髪を見て聞く。

「さっとシャワーしただけです」
「そやな、それがええわ。まず足首な」

 先ほどより腫れていることはないと確認した先生は、強めにテーピングをし、寝る時に少し足を上げるように言い、さらに擦り傷を治療したあと

「明日の朝、また来るわ。テーピングの強さ変えんとアカンやろうし。眠れへんほど痛むなら痛み止め置いとくけど、どうや?」

 顔に似合わない優しい声で聞かれ、とにかく返事だけは返した。

「大丈夫です。ありがとうございました」
「ほな、明日な」

 それから空腹を感じカップ麺を食べると、いつも通りマサムネの歌声を聞きながら眠りにつく。寝る時はイヤホンをせず耳元に音源を置き、小さな音で音楽を流す。

♪~~♪

 体が重い…痛いのかな…眠れそうで眠れない…数時間後やっと深く意識を沈ませた。

 その間、正宗が今泉先生から私のケガの報告を受けた後、潤と駿との3人で私の部屋を見た違和感を話しあい、今調べのついている以上に私の事を詳細に調べ始めたとは夢にも思わなかった。

 翌朝、まだ早朝という時間に左肩が痛んで目覚めた…直接打ちつけてはいないけど手に衝撃があったからか…先生の言った通りだと一人苦笑する。もう今は眠れそうにない。

 まだ薄暗い中、薄っぺらい布団からゆっくりと起き上がり、部屋の電気をつけて体の痛みを確認する。狭い部屋で良かったと思えるほどすぐそこのトイレに行き、出たところでインターホンが鳴った。怖い…こんな時間にインターホン鳴らす人なんて異常者か犯罪者でしょ…いや、犯罪者はインターホン鳴らさない?頭を忙しく動かしトイレの前で固まっていると小さく控えめなノック音がコンコンとする。

「綸、起きただろ?飯持って来た、開けろ」

 ドア越しでもわかる甘い囁き声に何となく手櫛で髪を整える。何でこんな時間にいるの?どうして起きたってわかるの?まあいいか…玄関ドアを開けただけで見える煎餅より薄っぺらい布団を見たらもう関わらないでいてくれるだろう。
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