さまよう綸

第13話

 あれからマンション生活に戻り、以前のように半日ほどの仕事と少しの家事をする日々だけど、マンション生活に慣れ始めたので暇に感じる。そんな今日は、高須の組長さんから食事のお誘いがあり料亭の個室で向かい合っている。正宗が会社関係の会食でいない時を狙って誘ったと笑う彼は

「で?ほら、練習しただろ?ん?」

 正宗とよく似た、ん?を期待に満ちた音で繰り出す。

「…ぉとうさん?」
「50点」

 えっ、採点?斜め向かいの畠山さんを見ると深く頷く…えっ?畠山さんも意味わかんないですけど…

「おとーさん?」
「…70点」
「お父さん!」
「投げやりな感じがマイナス10点」
「…結構細かいんだね、お父さん」
「…」
「何点?ん?」

 真似してみるとすごく悔しそうにしながら

「録音すれば良かった…100点」

 ちょっと面倒なお父さんなのかと見つめていると畠山さんが

「綸さんが若と婚約したのが嬉しくてかなり浮かれておられますね」

 とクスクス笑っている。そう言われると仕方ないじゃないか…私も頬が緩む。

 それからお父さんと畠山さん、私の3人で豪華な食事を頂く。本来お父さんと私だけが食事をし、畠山さんはお父さんの後ろに控えているそうだが、私はそんなの食べられないと言った。そして伊東さんたちは部屋の前に立っている。

「慣れないだろうが高須はこんなところだ。悪いな、綸」
「ううん、私の方こそわがまま言ってごめんなさい。畠山さんも」
「いえいえ、思いがけず美味しい物を頂けました」

 本当に美味しい。私の経験や知識では説明出来ない見た目と美味しさだ。

「お父さんはいつもこんなご馳走食べてるの?」
「いや、京太たちの作る芋煮やら普通の飯の方が多い」

 美味しそうに日本酒を飲んだ彼は私に聞いた。

「不自由や不便はないのか?皆、綸の事は口を揃えて‘何も頼んで来ない’と言ってるが?」
「マンションに何もかも十分揃ってるしね…もう少し仕事は増やせないか相談したいなと思ってるところ。暇な時があるから」
「暇な時に、エステだとか爪とか行けばいいんじゃないか?」

 爪ってネイルサロンに行く事か…

「うーん、行ったこと無いし興味ないかな」
「暇な時、本家に来られてはいかがですか?」

 と言う畠山さんに本家で私がやることがあるのかと聞いてみると

「若の婚約者である綸さんに雑用をお願いするのは如何かと思うところですが…何かしらしていたいんですよね、きっと」

 大きく頷く私に、お父さんは遊んでいてもいいのに…と呆れていた。
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