果物のように甘いだけじゃない
今日から広報へ異動だ。
一般社員からリーダーという微妙な役職までついてしまい複雑な気持ちで電車に揺られている。
満員電車が大きく揺れて人の波に押し潰されそうになり、ヒールを履いた足でグッと踏ん張る。
黒髪セミロングだった学生時代。
大人になり、ボブヘアーにし、幼く見える顔をメイクし、社会人をひたむきに頑張っている。

しばらくして空いてくると端の席に座ることが出来た。
忙しかったり、焦ることが苦手。
なのに、周りの人からは仕事をバリバリやっているとか言われる。朝の通勤は大嫌いだ。
入社してまだ間もない頃の会話をふっと思い出す――。

『ねえ、果物言葉って、知ってる?』
『くだものことば? 知らないです』
『誕生花や花言葉みたいなものよ。果物言葉は、時期や外観のイメージ・味・性質をもとに作ったものでね。果物屋の仲間達が作ったんだって』



入社したばかりの頃。
同僚が上司のいない時にホームページを開いて見せてくれた。
スクロールして調べた日は十一月三日。
誕生果はりんごで相思相愛と書かれていた。
誰かの誕生日ではない。
私と大くんが付き合った記念日だ。
二十一歳で入社した時は、すでに大くんと別れて二年以上が過ぎていたのに。
自分にとっては忘れられない日だった――。
< 2 / 70 >

この作品をシェア

pagetop