強気で完璧なお嬢様は執事の前でだけヘタレ
1.お嬢様、男の子を拾う
わたくしは──久保寺瞳は完璧なお嬢様である。
勉強も運動も礼儀作法も隙はない。人間関係だって卒なくこなす。
だから──庭小屋に男の子が転がされていても、ちっとも驚いてはいけないのだ。
その日、久保寺家の広い庭には朝から雨が降り注いでいた。
ざあざあと。
庭木の葉は湿り、石畳はライトを受けて光り、足元から冷気が骨までしみるようだった。
季節は九月下旬。
昼間にはまだ重たくも暑い湿気が残っているけれど、日が落ちれば空気はすぐに冷えてしまう。
「……やっぱり、寒い」
思わず呟いて、鼻をすすった。
使用人渡された傘は差している。
制服の上にカーディガンも羽織っている。
それでも、雨に濡れた空気は容赦なく身体を冷やしてくる。
普段はハーフアップにしている長い黒髪は、湿気を吸ったのか重たい。
早く屋敷へ戻ろう、風邪をひいてしまう。
そう思うのに、動けなかった。