強気で完璧なお嬢様は執事の前でだけヘタレ



「……」

「お前は、久保寺家のお嬢様だ」

「わかっています」

「だから、俺は──」

「それでも」


 わたくしは彼の言葉を抑えた。


「それでも、私はあなたの側にいたい」


 藤太が息を呑んだ。


「瞳……」


 その呼び方が、心に染み込んでいく。

 いつもなら、人前では「お嬢様」と呼び、二人きりでも、ふざけたとき以外は距離を取る彼が。

 今は──ただわたくしの名前を呼んでいる。

 それだけで、もう十分だった。

 わたくしはそっと手を伸ばし、藤太の袖をつかむ。


「……行かないで」


 もう一度。


「お願いですから」


 藤太がわたくしの手を見る。

 そして、その手に自分の手を重ねようとした。

 ほんの少し、指先が触れる。

 それだけなのに、全身が熱くなる。

 顔を上げると、藤太の顔が近かった。


「……瞳」

「……はい」

「俺──」


 あと少し。


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