強気で完璧なお嬢様は執事の前でだけヘタレ



 ──ただし、藤太と二人きりになったときには。


「……藤太」

「ん?」

「この前のこと」


 少しだけ顔が熱い。たぶん、赤くなっている。


「忘れていませんわよね?」

「忘れるわけないだろ」


 即答だった。


「……そう」

「むしろ、忘れられると思う?」

「それなら、かまいません」


 わたくしは小さく笑う。


「瞳」

「何ですの?」

「今日も頑張れよ」

「あなたもね」


 たったそれだけの会話なのに、胸がいっぱいになって手を当てた。

 いつものように、執事然として立っている藤太。

 でも、今までとは違う。

 彼の手を、声を知っている。

 そして、気持ちを知っている。

 わたくしはそっと彼に向けた。

 完璧なお嬢様の仮面の下で、誰にも見せない顔で、大好きな人にだけ向ける。

 小さな笑顔を。

 ──雨の夜に始まった恋は、月夜の下でようやく実った。


──完──
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