強気で完璧なお嬢様は執事の前でだけヘタレ
藤太も言葉を失っていた。
「……」
わたくしも何も言えない。
どうしてこんなことを言ったのか。
ずっと、なんて契約ではないのだから、おかしなことではないのに。
ただ、彼がいなくなる──そのことを想像しただけで、胸がどうしようもなく苦しくなった。
「あなたがいなくなるのは……嫌です」
もう一度、今度はしっかりと言った。
藤太がわたくしを見る目が、大きく揺れた。
「瞳……」
名前を呼ばれて、頬が熱くなる。
でも、わたくしはまだわからない。
この“嫌だと思う気持ち”が何なのか。
ただの寂しさなのか。
同士を失うのが心細いのか。
それとも──もっと別の感情なのか。
わからないけれど、今はただ、彼にいなくなってほしくなかった。
その夜わたくしたちは初めて、身分という壁を真正面から意識した。
わたくしたちが良くても、周囲が良しとしないこともあるのだと。