強気で完璧なお嬢様は執事の前でだけヘタレ



 そして翌朝。

 その壁をさらに高くするような人物が、久保寺家を訪れた。


「瞳さん」


 玄関ホールに立っていた青年が、穏やかに微笑んだ。

 見覚えのある、形の良い目鼻立ち。

 久保寺家とも深い付き合いのある、名家の息子。

 裕大叔父様の子で、私の従兄弟。

 鈴間尚人(すずまなおと)さん。


「お久しぶりです、尚人さん」


 礼儀正しく頭を下げる。

 すると、尚人さんは少しだけ困ったように笑った。


「父から話を聞きました」

「……何の話ですの?」

「え?」


 尚人さんが目を瞬かせる。


「まだ聞いていないんですか?」

「何を……?」


 尚人さんは一瞬だけ言葉を選ぶように黙って。

 そして。


「僕との婚約についてです」


 その瞬間、胸の奥が嫌な音を立てた。

 そしてわたくしの脳裏に浮かんだのは。

 昨夜の藤太の顔だった。


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