早見さん家の恋愛事情
第二話
「で、どうなの? 仕事は。花菜のことだから心配ないと思ってるけど」
荻さんに連れられて今日も先日乗せて頂いたベンツに乗り込んだところ、沙耶香も乗っていた。大丈夫なの? これ社用じゃないの? でも、直澄さんだったら許してくれそう。寧ろご本人から言ってそう。私も沙耶香も向かう先は同じだものね。
「順調よ。心配しないで。そんなことより体は大丈夫なの?」
「平気よ、安定期に入ってるし。たまには学校に行きたいし、花菜にも会いたかったからワガママ言っちゃった」
荻さんも大変ね。だから、車で一緒に登校してるんだ、と腑に落ちる。
「そう、私も会いたかったわ。でも、楽しみね。どんな子が生まれて来るのか」
沙耶香のお腹を触らせて貰いながら、将来どんな子が生まれてくるのか想像する。私もいつか、子どもを授かる日がくるのかな?
「それも楽しみだけど、彼から聞いてるわよ」
「何を?」
さっきまでと違ってニヤリとほくそ笑む沙耶香。
「社長と一緒に夕飯食べてるんでしょ?」
「え? ああ、そのこと」
何かと思えば。
「やるじゃない、あの水原社長と一緒にご飯だなんて」と小声。荻さんに聞こえないようにしてるのかな?
「え? どういうこと?」と私もつられて小声で返す。
まさかの答えが返ってきた。
「社長って、女性が苦手なのよ」
「え!?」
思わず声を上げると、運転席から「何か?」と荻さんが気にかけてくれた。慌てて「何も!」と返すと、「そうですか」と返答があり、また運転に集中し始めた。
――初耳にも程がある。
でも、全然そんな風に見えなかったけど? と思っていると、隣から声が聞こえてきた。
「それなのに、花菜とは一緒に夕飯を食べているなんて……玉の輿も夢じゃないわね!」と目を輝かせる沙耶香。
いや、そうじゃないのよ。
「何でそれを先に言ってくれなかったの!?」とテンションは高いまま、また小声で返す。
「え? 言わなかった? 私が社長にお目通りしたことがあるのは一回だけだって」
「それは聞いたけど!」
「その理由が異性が苦手だからだって」
「そこは聞いてない!」
これってまずいんじゃないの……?
直澄さんが一緒に夕飯を食べることに苦痛を感じていたら解雇なんてことも……。
浮かれてた私がバカみたいじゃないの!!
「何とかしなきゃ……」
落胆する私の隣で、沙耶香はお腹を擦りながら「何を?」と不思議がっていた。