この結婚には愛しかない
「まいったな。夕食はテイクアウトにしてすぐ帰ろう。どっちにしろ夕食はしばらく先になっちゃうけどいいよね?」

有無を言わせぬ強引な瞳。もちろん拒否するつもりはなく。

「愛してもらうだけじゃなくて...私にも精一杯愛させてください」


私にはミシェルさんのような色気も自信もない。

でも昨日ミシェルさんに対して強い気持ちでいられたのは、伊織さんがくださる揺るぎない愛。そして伊織さんへの無償の愛。これだけは絶対誰にも負けない自信がある。


「どうしたの?すごく煽るね。お好み焼きは明日からのベトナム出張から帰ってきてからね」

「はい、楽しみにしてます。気をつけて行ってきてくださいね」

「うん。ねえ、敬語取ってもう1回それ言って?」

「...楽しみにしてる。気をつけてね」

「ああもうヤバいな。じゃあさ、伊織って呼び捨てしてよ」

「...それはハードル高すぎです。おいおい、でお願いします」

「ああもうほんと可愛い。ねえ、家まで待てない。ここで襲っていい?」

「ダメですそんな、」

「ダメ?我慢できない」

「ダメ...」


甘えられ、乞われ、情けないほど拒否が弱くなる。

伊織さんの大きな手が頬に添えられ、親指が唇をなぞる。


「あいつに触られたところを徹底的に消毒しなきゃ」


してください。


その言葉は、キスに呑まれた。


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