この結婚には愛しかない
莉央に案内してもらったスーツ店は、この街1番の繁華街にある大きな店舗だった。

県内を中心に何店舗も構えるスーツ店の旗艦店で、既製品の取り扱いブランドは多く、セミオーダーやフルオーダーまで扱っているそうだ。

道に面したショーケース内もシンプルだけど華やかでパッと目を引いた。広々とした店内は自然な明るさで、外から見ても開放感があって来店客も多い。

へえ、好みの店だな。


湊くんはすぐこっちに気づいたけど接客中で、代わりに若い男性店員が莉央に飛びつきそうな勢いでやってきた。満面の笑みで。

本能的に莉央を守ろうと行動したところで、冒頭に戻る。


「いらっしゃいませ!お待ちしておりました!」

「中村くんこちら、」

「神田さん!神田伊織さん!うわうわうわ、やべえムリ俺泣きそう」

「中村。他のお客様がいらっしゃるだろ」

湊くんがやってきて中村くんを咎めた。気持ちはわかるけどせめて声のボリュームとトーンを落とせと。

ああ、湊くん本当にうちに来てくれないかな。


泣きそうと言った彼の言葉は大袈裟だった訳ではなく、涙がみるみる目に溜っていく。

「中村くん...」

莉央もだ。


「伊織くんごめんうちの中村が」

「ははっ泣かれちゃったよ」

莉央がカバンからハンカチを取り出して、そっと目を押さえる。

大丈夫?と肩を抱くと、中村くんが「はあ、マジ愛」とため息を吐いて声を震わせた。
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