この結婚には愛しかない
「小泉さん長谷川くん、10分後専務室行ける?ビジョン10(イチマル)の打ち合わせ」

「「はい」」


大森室長からの突然の招集に、まじか今19時だけど。と長谷川くんが小さくボヤく。


「神田専務、昨日今日で九州に出張されてたよね。社に戻られたんだ」

「嬉しいんでしょ。会えるから」

「うん」

「素直かよ。俺の気持ち汲んでそんなことないよくらい言ってくださいよ」


先週末、残業後に長谷川くんを食事に誘い、今の正直な気持ちを伝えた。

神田専務に振られて、本当にそれでも良ければ長谷川くんの気持ちに応えたい想いはゼロじゃないと。

全然それで問題ないから早く告白してよと冗談めかして急かされたけど、神田専務は誰よりも過酷なスケジュールで、そんなタイミングがないのが現実。2人きりでお話できたのはあの時だけだ。

お体を壊されないか本当に心配。


「俺専務と初対面ですよ。あ、俺が小泉さんの代わりに告りましょうか?」

「そんな意地悪しないくせに」

「はい冗談です」

「(それに振られるとは限らない)」

長谷川くんがそんな言葉を飲み込んだなんて、私は知る由もない。
< 41 / 348 >

この作品をシェア

pagetop