あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
12.彼女を手に入れた日
 ――聖女が現れました。
 こっそりと耳打ちされたときには、目の前ではどこかの貴族の父娘がデビュタントの挨拶をしようとしたときだった。
「栄えある未来を心から祈っている」
 何度口にしたかわからないその言葉を、感情を込めずに言い放つ。
 目の前の父娘は、嬉しそうに顔をほころばせてその場を去る。
 イングラム国の国王であるデイヴィスは、今すぐここを立ち去りたかった。そしてそのまま、聖女と認定された彼女を、()()()側に取り込みたかった。
 だが、今日はデビュタントを迎えた少女たちに、祝福の言葉を授けなければならない。
 イライラとする気持ちをやり過ごしながら、決まりきった言葉を口にし続けた。
 聖女が現れたという報告は、それのみだった。他にも数人の少女たちが成人を迎え、魔力鑑定を受けたはずだ。だけど聖なる力を持つ女性は、たった一人。
 いや、一人でも現れたのだからよかったのかもしれない。ここ十数年は、聖女と呼ばれる女性は不在だったのだ。
 どんな理由で、何がきっかけで、彼女たちが聖なる力を備えるかはわからない。まさしく、神のみぞ知る世界なのだろう。
 聖なる力を持つ女性がウリヤナ・カールであると知ったのは、それから十日後のことだった。彼女は神殿に入ることを決めたらしい。
 デイヴィスは小さく舌打ちをした。間に合わなかった。
 聖なる力があるとされても、神殿に入るのは強制ではない。だからデイヴィスは、彼女を王城側で保護しようとしたのだ。そう、保護である。
 神殿に入れば奪われてしまうだろう聖なる力を維持するために、聖女を王城で保護するのだ。
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