あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
 その様子を、ヘンリーも何度か目にしたことがある。つまり、噂ではなく事実。
 王太子と聖女の仲は冷え切っている――
 そう言った声すら聞こえてきた。
 コリーンがそれとなく探りを入れたようだが、そんな仲であっても二人の婚約は継続されたまま。
 国のために結婚するような二人だ。互いのそういった一時の感情を、大目にみているのかもしれない。
 それでも二人の距離は離れていく。
 幾度となく婚約が解消されるのでは、という噂もあった。
 そしてそれがとうとう現実となったのは、コリーンが聖女と認定されたからだ。
 二人目の聖女が誕生した。
 しかし聖女ウリヤナは、姿を消した。彼女がなぜいなくなったのかはわからない。
 その代わり、コリーンが聖女となり、王太子クロヴィスの婚約者となった。
 もちろん、この件にエイムズ子爵は反対しなかった。
 聖女を輩出した家には、聖女褒賞金が支払われる。それだけで、父親は上機嫌であった。
 だが、それとは裏腹にヘンリーの心はどす黒く染められている。
 コリーンは、エイムズ子爵家と縁を切った。聖女となった彼女は聖女であって、聖女以外の何者でもない。
 コリーン・エイムズという名の女性は存在しない。
 いるのは、聖女という女性。聖女はその名すら呼ばれることがない。
 コリーン・エイムズという女性はもういない。
 それは、青空が広がり、太陽が眩しいくらいに輝いている日の午後のことだった。
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