あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
 そう考えると、彼にそんな顔をさせる人物は一人しか心当たりがない。
 なるほどと、心の中で呟く。
 つまり、クロヴィスを使って、聖女をこちら側に取り込めばいいのだ。むしろ、神殿に閉じ込められてしまう彼女を救い出そうとしているだけ。
 だが、時期尚早であってはならない。何事もタイミングは重要だろう。
 デイヴィスは、執務机の上に並べてある聖女に関する書類を手に取った。一字一字、かみしめるかのように、じっくりと視線を這わせる。
 ウリヤナ・カール、十六歳。カール子爵家の長女。二歳下の弟がいる。
 それからカール子爵家の現状。ここ一年で、資産が目減りしているのが目に入った。
 だから彼女は、神殿に入る決心をしたのだろう。
 その理由さえ知れば、彼女を手にいることなど容易い。
 書類を手にしたまま、デイヴィスはほくそ笑んだ。

 デイヴィスが動き始めたのは、それから半年後だった。
 聖女ウリヤナの噂は彼の耳にも届いてくる。
 日照りの多い村へ行っては雨を降らせ、洪水で悩む街へ行っては水の動きを変え、流行り病が蔓延する町へ行ってはその根源を断つ。
 まるで奇跡と呼ばれるような、耳を疑うような事実が飛び込んでくる。
 しかし、それが『聖なる力』なのだ。人々を痛みと苦しみから解放し、神の力を借りて奇跡を起こす。
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