あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
14.彼女が命を育む日
 ウリヤナがローレムバ国にやってきてから、半年が経った。
 日に日に膨らむお腹を穏やかな気持ちで見守っていられるのも、隣にいるレナートのおかげだろう。
 レナートはローレムバ国の魔術師でありながら、ザフロス辺境伯という立派な爵位を持っていたのだ。人は見かけによらない。
「気分はどうだ?」
 ゆったりとしたソファに深く座っているウリヤナを労わるかのような、やさしい声が隣からかけられた。
「えぇ。悪くはないわ……ただ、お腹の子の元気がよすぎて」
 胎動も感じられるようになり、ぽこぽこと自分の意思とは異なる動きを見せているのが不思議でもある。
「元気なもんだな」
 彼は笑うと、目が糸のように細くなる。
「俺の魔力を注ぎたいのだが、大丈夫か?」
「大丈夫よ。いつもありがとう」
「俺の子だからな。当たり前だ」
 レナートの手がウリヤナの腹部に触れた。
 彼が父親になりたいと口にしたときは、もちろん驚いた。彼とはあのときに会ったばかりであったのに。それに、もちろん彼とは血の繋がりのない子になる。
 その意味を問うたところ。
『俺の国では、血の繋がりよりも魔力の繋がりを重視する』
 胎児のうちに魔力を注ぐことにより、その注いだ者の魔力に胎児が馴染むらしい。そうすることで同じような魔力になるのだとか。
 胎児に魔力を注ぐという話を始めて聞いたウリヤナにはピンとこなかった。だが、ローレムバに来て、それがここでは当たり前だと知る。
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