あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
 特に今回は、レナートと胎児に血の繋がりがない。となれば、魔力が馴染むのに時間が必要となるため、妊娠初期から魔力を注ぐ必要があった。
 あのときも、ウリヤナの妊娠がわかったばかりだったから、間に合うと彼は思ったらしい。
 それに、彼自身の子が望めないという話も聞いた。
 不器用ながらも真っすぐに気持ちを向けられ、心がぽかぽかと明るくなったのを覚えている。
 今になって思えば、それが彼に惹かれた瞬間だったのかもしれない。
 彼から魔力を注がれると、腹部からじんわりとした温かさが全身へと広がっていく。最近では、これがあまりにも心地よ過ぎて、こっくりこっくりと船を漕いでしまう。
「……ん、終わったの?」
 夢か現かわからぬ世界から覚めると、隣で彼は魔導書を読んでいた。ウリヤナは、彼の肩に頭を預けていたようだ。
「ああ、終わった」
「終わったなら、声をかけてくれればいいのに」
 身体を真っすぐにして、腕を前に伸ばす。
「お前が気持ちよさそうに眠っていたから。起こすのはかわいそうかなと思ってね」
 いつの間にか、掛布まで準備されていた。きっと彼の優秀な侍従が、持ってきてくれたのだろう。彼が読んでいる魔導書もそうだ。
「気持ち悪くなったりとか、してないか?」
「大丈夫よ。最近、あなたにそうやって魔力を注がれると、気持ちがよくて」
「だから、寝てしまう?」
 その言い方がちょっとだけ意地悪な感じがしたので、ウリヤナは「そうね」と言って唇を尖らせる。
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