あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
「怒らせてしまったのならすまない。そうではなくて……。何回やっても、魔力を注ぐのに慣れないんだ。だから、いつも気分を悪くさせていただろう?」
 レナートは毎日のように時間を見つけては、胎児に魔力を注ぎにくる。ウリヤナはそれを、どこか楽しみにしている。
 その行為はウリヤナがここに来てからすぐに始まった。日によっては、彼が不在のときもある。だからなのか、レナートはできるだけウリヤナと共に時間を過ごし、魔力を注いでいた。
 最初はくすぐったいとさえ感じていたその行為だが、何度も繰り返していくうちに慣れていくし、魔力を注がれている間にも、幾言か言葉を交わすようになる。
 お互いにとって計算的な結婚であったが、レナートはウリヤナの凍り付いた心を次第に溶かしていったのだ。
 不器用ながらもウリヤナを気遣うような些細な仕草。笑うと糸のように細くなる目。照れると赤くなる耳の下。
 そして何よりも、ウリヤナを聖女としてではなく、ウリヤナという一人の女性として扱ってくれる。聖なる力を失ったからと言って、放り出すようなこともしない。
 ウリヤナは悪阻が酷かった。この屋敷を訪れた頃は何も感じなかったのだが、医師の診察を受け、はっきりと妊娠がわかって三日目頃から、胃がむかむかとし始めた。
 最初は、気分がよければ食事もとれたのだが、次第に固形物が食べられなくなる。ゼリーのような柔らかいものを好んで食べていたが、それすらままならない。
 最後には、水を飲んでも嘔吐してしまうという状態にまで陥った。
「あのときは……すまなかったな。俺も初めてのことで、どうしたらいいかがまったくわからなかった」
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