あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
2.彼女が旅立つ日
 神殿側は、ウリヤナが聖なる力を失っていることをもちろん把握していた。それでも彼女に居場所を与えていたのは、失った力が戻ってくるかもしれないと考えていたためだ。それに今までのウリヤナの貢献度も考慮したのだろう。彼女は聖女として、神殿に仕え、国に尽くした。
 聖なる力は魔力と異なるため、何がきっかけで力が与えられ、何がきっかけで力を失われるかがわからない。だから、力が戻ってくることに彼らは期待した。確率がゼロでなければ、それに賭けたい想いもあったにちがいない。
 また、もう一つ単純明快な理由があった。新しい聖女であるコリーンが、神殿には寄り付かないからだ。国のためにと言われている聖なる力を、彼女は私利私欲のために使っているようにも見える。
 そのため、ウリヤナが神殿を出ていくと口にしたとき、神官たちは戸惑いを見せた。
 そんな彼らからしたら、意思は強いが神殿の教えを守っているウリヤナは、手放したくない人材である。
 そしてウリヤナが聖なる力を失ってしまったため、聖女と呼ばれる存在はコリーン一人となる。それが神殿にとっては心もとないのだ。昔は、毎年一人くらいは、聖なる力を持つ女性が現れたはずなのに、ここ数十年でぱたりと減った。ましてここ十年、聖なる力を持つ女性は存在していない。
 聖なる力がいつ誰に目覚めるかわからない。
 そのため、過去には聖女が不在である期間もあったし、ウリヤナは十年ぶりの聖女と言われていた。
 だがコリーンが聖女としてクロヴィスの婚約者の立場におさまってしまった以上、ウリヤナはもうあの二人に関わりたくなかった。神殿にいれば、何かと呼び出されて、いいように使われてしまうかもしれない。まして、コリーンが神殿に寄り付かない聖女であるなら、余計に。力だけでなく、その存在も、その時間も搾取されるのだ。
 それは絶対に避けたい状況でもある。
「修道院でお世話になろうと思います」
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