あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
16.彼女たちの招待を受けた日
 イングラム国内は、次第に荒れ始めていた。騎士団の目の届かないところでは暴動も起こっている。
 というのも、食べ物が手に入りにくくなっているのが原因であった。不作は以前から起こっていたが、それが続き、拡大している。
 クロヴィスは頭を抱えた。それもこれもすべて、ウリヤナがいなくなってからだ。
 カール子爵を問い質したが、彼はウリヤナが聖女となってからは縁を切ったと口にする。彼女が修道院に行ったと神殿側が言うのであれば、そうなのだろうとしか言わない。カール子爵は、彼女がどこにいるかはわからないとのこと。連絡も取り合っていないようだ。
 彼女の居場所がわからないのであれば、彼女の家族を使って脅しをかけることもできない。
 会えないとわかれば、会いたいという思いが募る。
 クロヴィスはウリヤナを手放したいわけではなかった。ただ側にいて欲しかった。それすら彼女には伝わらなかったのだ。
「クソッ」
 どん、と両手で机の上を叩けば、山のような書類が雪崩を起こす。嘆願書の山だ。
 さすがにこの現状には、コリーンも焦り始めたらしい。聖女としてできることをすべきだと、国王からも詰め寄られ、顔を真っ青にした。
 あのとき彼女は、わけのわからないことを口にしていた。
『……ですが。力を使い過ぎれば、力を失ってしまうのではないのですか? ウリヤナと同じように』
 コリーンも国王も、他に誰もいないと思ったのだろう。だが、彼女を探していたクロヴィスは、たまたまその二人の会話を耳にしてしまったのだ。
 聖なる力は使い過ぎれば失われてしまう――
 そのようなことをクロヴィスは知らなかった。つまりウリヤナが力を失ったのはクロヴィスが彼女の純潔を奪ったせいではなかったのだ。
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