あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
 むしろ、神殿のせいだろう。神殿がウリヤナの力を利用したのだ。
 彼らに気づかれぬように執務室に戻ったクロヴィスは、机の前に座って奥歯をギリギリと噛みしめていた。
「クロヴィス様、書簡が届いております」
 そう言って部屋に入ってきたのはアルフィーである。彼は以前と変わっていない。変わっていないのは、彼だけかもしれない。
「これは……。ローレムバ国から、か?」
 以前、イングラム国の現状を助けてほしくて、魔術師の力を依頼したことがある。
 あのときローレムバ国の属国となることを条件としてつきつけられ、少し考えさせてほしいと回答を保留にした。
 それ以降、連絡はとっていなかった。できることなら、今すぐにでも助けてほしいくらいだ。
 もしかしたら、救いの手を差し出してくれたのだろうか。
 だが、封書から察するに、招待状のようにも見える。
 アルフィーよりペーパーナイフを受け取り、それを隙間から滑らせた。
 封を開けて中身を取り出すと、やはり招待状であった。
「何もこの時期に……」
 どうやらローレムバ国の王弟でありザフロス辺境伯が結婚をしたため、お披露目会を行うという招待状であった。
 ザフロス辺境伯は、一年ほど前にイングラム国を訪ねてきた。それは聖女の力を貸してほしいという理由によるものだった。
 それを一蹴したのはイングラム国王である。それが原因で、今ではローレムバ国の協力を得られない。
 この招待を断るわけにはいかないだろう。今後のことを考えると、ローレムバ国とは仲良くしておきたい。
「これは……私宛にきているが、父上にも?」
 その言葉にアルフィーは「わかりません」とでも言うかのように首を振る。
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