あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
「うっ……、あ、あぁあっ……」
「クロヴィス王太子殿下……いや、今はただのクロヴィスか?」
 クロヴィスは金色の目をせいいっぱい広げた。
「イングラムは、ローレムバの属国となった。残念ながら、お前たちが望んでいた結果とは逆の結果になったようだな」
「うぅっ……」
 喉が焼けつくように痛くて、声は出ない。もちろん身体を起こすこともできない。
「無理して声を出さないほうがいい。馬車で移動中、お前たちは暴漢に襲われたのだ。命があっただけでも奇跡だと思ったほうがいい」
 男は淡々と話をすすめる。
 クロヴィスはローレムバ国に向かう途中、暴漢に襲われ、大怪我をしたようだ。そしてここはイングラム国の王城から離れたところにある離塔。ここで療養中とのこと。
 その間、イングラム国がローレムバ国の属国となったことで、デイヴィスは退位する。廃位ではなく退位を取らせたのは、ローレムバ国の温情だろう。
 コリーンは聖女でありながらも聖なる力を民のために使わなかった事実をつきつけられ、ソクーレの修道院へと送られることになっている。彼女も今は、怪我の療養のためこの離塔の別の部屋にいるようだ。
「コリーン殿が軽傷で済んだのは、お前がずっと彼女をかばっていたからだ」
 そんな記憶はないが、きっと身体が無意識のうちに動いたにちがいない。もしかしたらコリーンとウリヤナを重ねたのだろうか。
「クロヴィス様……」
 会いたいと思っていた彼女が目の前にいる。目尻に、自然と涙が浮かんだ。
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