あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
エピローグ
 目覚めると石造りの天井が目に入った。
 頬にはピリっとした痛みがある。そういえばあのとき、アルフィーが剣を向けてそこに傷をつけた。それがほんの少し痛むのだ。
 身体を動かそうとしても、重くて動かない。手足の先まで、硬い寝台に縫い留められたかのよう。
 声を出そうとしてもそれは唸り声となり、言葉にもならなかった。
 あれから、どのくらい経ったのだろう。それよりもここはどこだろうか。
 硬い寝台。かび臭い室内。そして、石造りの天井。まるで、罪人を閉じ込めておく離塔にも見える。
「あっ……、ああっ……」
 誰かいないだろうかと声を出すが、やはり言葉は出てこない。
 何が、起こったのか。
 クロヴィスは必死で記憶を探る。
 隣国ローレムバのザフロス辺境伯が結婚をした。そのパーティーに招待され、そこへ向かう途中だった。
 中継点のテルキの街で休むはずだったが、馬車はそこには向かわなかったようだ。
 そこからの記憶が曖昧である。
 ギギィ――。
 軋んだ音を立てながら扉が開いた。ふわっと外からの冷たい風が入り込み、それと共に部屋に入って来た男女がいる。
「目が覚めたようだな……」
 長ったらしい黒い髪。青い瞳。クロヴィスは彼を知っている。そして彼の後ろに控えている女性は、黒い髪の赤ん坊を抱きかかえている。
 だが、彼女は――。
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