あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
『娘にそのような生活は求めません』
 厳しい口調でそう告げたのは、コリーンの父親だった。
 コリーンは驚いて父親を見た。国家魔術師は選ばれし者。なぜ、それを拒む必要があるのか、さっぱりわからない。
 お父さま、私、魔術師になりたいです――。
 そう言いたかったが、その言葉を呑み込んだ。
 彼女が父親を呼ぼうとした瞬間、その父親がものすごい形相でコリーンを睨みつけたからだ。
 彼女は身体を小さくした。
『そうですか……。無理強いするものでもありませんので』
 そのときの神官長は、とても寂しそうな顔をしていた気がする。コリーンに何かしら期待してくれていたのかもしれない。
 コリーンは可能性があるならば、魔術師の道を目指したかった。だが、あの顔を見たら、それを父親が許すわけがない。
 聖女であるならば、まだしも――。
 いくら国家魔術師であっても、その地位は聖女には敵わない。聖女は、神との対話ができる聖なる乙女なのだ。国家魔術師は魔力が強く、その力を国のために使う存在。それでもコリーンは、今と異なる道があるのなら、それに挑戦したかった。
 そんな悔しい思いを抱きながら大広間へと向かい、ダンスの輪に混ざった。
 父親と踊るファーストダンスは可もなく不可もなく。ただ、父親は面白くなさそうに唇を真っすぐに閉ざしていただけだ。まるで、コリーンに興味などないかのように。
 娘の晴れのデビューなのだから、もう少し嬉しそうな表情をしてくれてもいいのに、とは思う。だが、それを望むだけ虚しくなる。
 その後、ウリヤナがカール子爵と共にやってきた。だがこのときコリーンは、彼女が聖女として認定されたことを知らなかった。
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