あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
 書簡を手にしたクロヴィスは、アルフィーよりペーパーナイフを受け取った。隙間からナイフを差し入れ、閉じられていた封が破けぬようにと丁寧に滑らせる。
「例の件の返事のようだな」
 手にした時からそんな予感はしていた。
 クロヴィスはイングラム国の現状を打破するために、ローレムバ国へ書簡を送っていた。
「ローレムバ国には、優秀な魔術師が数多くいると聞いております。彼らであれば、この国の現状を助けてくださるでしょう」
「そうだな……」
 抑揚のない声で、クロヴィスは返事をした。
 頭の痛い案件ばかりである。
 それもこれも、ウリヤナがいなくなってからだ。
 彼女とは婚約を解消したが、その居場所まで奪うつもりはなかった。
 彼女が望めばコリーンの侍女として取り立ててやるつもりであったし、その地位を生かして側妃として娶ることも考えていた。むしろ、彼女を手放したいとは思ってもいなかった。
 ()()()()()がなければ、たとえ力を失ったとしても、ウリヤナを正妃として望みたかった。
 だが、それは叶わなかった。すべてはコリーンのせいだ。ウリヤナの自尊心を傷つけるような態度をとった。一目見た時から、コリーンは気に食わなかった。それなのに、まんまとこちらの懐に潜り込んできた。
 だからウリヤナは「やりたいことがある」と言ったに違いない。それを口実にして、クロヴィスから離れたのだ。
 その後、彼女はどこかの修道院に身を寄せたと聞いている。
 コリーンがしゃしゃり出なければ、すべてはうまくいくはずだったのに。
「くそっ」
 心の中で呟いたつもりだったが、アルフィーが苦い表情を浮かべたため、声に出ていたことを知る。
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