あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
 そんなこと、イーモンの手紙にはいっさい書いてなかった。
 ソファの前にあるテーブルの上にも、一通の封筒が置いてあったのを目ざとく見つける。
「え? てことは、姉さんはもう、イングラム(ここ)には戻ってこないのですか?」
「ああ、そうだ。だが、落ち着いたらこちらにも顔を出してくれるそうだ」
「落ち着いたら? どういうことですか?」
 イーモンにはたった一言であった手紙だが、両親にあてた内容は違ったらしい。
「好きな人との間に、子を授かったそうよ」
 母親の頬には乾いた涙の痕があった。
 イーモンは、ガツンと頭の奥を殴られたような感じがした。
「え? では、向こうで結婚を? クロヴィス殿下との件は?」
 ウリヤナは王太子クロヴィスの婚約者であった。
 今はわけがあって婚約を解消されてしまったが、ウリヤナが誠意を見せれば、それが覆るものだと思っていた。そうすれば、いずれイーモンも、王太子妃の弟として王城にあがれるはず。こんな国の隅っこにあるような領地ではなく、王都の華やかな場所で――。
「イーモン」
 父親が嗜めるかのように、声をあげた。
「それはもう、終わったことだ……。我が家がこうしてあるのはウリヤナのおかげでもある。彼女がこの家を出た時に、彼女の生き方には口を出さないと、母さんと決めたんだ」
「ですが……」
< 98 / 177 >

この作品をシェア

pagetop