溺愛執事は貧乏お嬢様を守り抜く
そっか、無かったことにしたいんだね、紫音は。


胸の奥にサクッと針が刺さったみたいに痛い。


どうしてこんなに悲しい気持ちになるの?


自分の気持ちがよくわからないよ。


彼はそれきり黙り込んでしまった。


ピチピチとお庭の小鳥達のさえずり声だけが部屋中に響き渡る。


こんな風に意地になって黙っていたってどうにもならない。


「忘れたりなんてできないよ」


自分の気持ちがまだ整理出来ないけど、やっぱりこのままじゃイヤ。


どうしてもこれだけは伝えておかなきゃ。


「紫音、私、やっぱり昨日のあれはキスだって思いたいの」


意を決して胸の中にあるものを打ちあけてみようと思った。


「どうしてそう思いたいのかって言うとね」


消え入りそうなくらいのか細い声で続けた。


「相手が紫音だから……」
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