年下の彼は甘い甘い鬼


杉田さんに会った翌日


電車に乗って祖父母に会いに来た

中高の長期休みの退寮期間は此処に来ていたからスッカリお馴染み


郊外の見晴らしの良い高台に立つ低層住宅はサービス付き高齢者向け住宅

一番のポイントは細部まで行き届くサポートがあることらしい


「杏珠《あず》ちゃん、お帰りなさい」


出迎えてくれた祖母は西の街に居た時より生き生きとして見える


テンションの高い祖母に案内されて入ったリビングルームには


祖母より元気な祖父が待っていた


「二人とも変わらないね」


「そうだろ?」


一階にある広いホールでは毎日様々なイベントが催され

老人ホームとも違う環境は二人の生活を充実させているそうだ


居室には簡易的なキッチンがあるけれど
同年代のお友達と一緒に食べるのが楽しいと食事サービスも受けている

此処に来るといつもはできるだけ楽しい話をするように心掛けるけれど
今回は南の街へ引っ越した経緯を話すことに胸が痛んだ

一緒に退職することになったスタッフの話になると祖父は目頭を押さえた


「アイツ・・・許せない」


最後に、祖父の顔が歪んだのは父の話だった


「珠里《じゅり》が亡くなった時に杏珠を養子にして良かった」


浅見の名前を持つ祖父の悔しそうな表情に“出て行って”と言った父の顔を思い出した


「杏珠には言ってなかったが、西の街を出る前に浅見医院はアイツに買い取らせた」


「・・・そっか」


「それとな」


「ん?」


「アイツは浅見との姻戚関係も切ってきたんだ」


「・・・え」


父は浅見との関係を解消するために亡くなった母との婚姻関係終了届を役所に提出していた


更には復氏届も提出したことから旧姓の大木《おおき》に戻ったらしい


聞かされた事実は残酷だった


「杏珠も引っ越したことだから、俺たちが住んでた家も売却しようと思う」


「・・・え」


「西に想いを残したくないからな」


祖父が決断したなら、私が口を出すことでもないけれど


広い庭がある平屋は祖父が終の住処と自慢するほど住み心地の良い家だった













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